「あなた、セックスって興味ある?」
倒したばかりの爆弾岩はその場で砕けることなく、僕にそう言った。
僕は最初、爆弾岩が何を言っているのかまったくわからずに、ただ黙って握っていたムチの先端を無意識に眺めていた。
このムチで叩き相手を倒した。
経験値とゴールドをもらった。
そしてセックスに誘われている。
整理するとシンプルだ。シンプルなだけに、思考の逃げ場を失った僕はしずかに混乱していた。
「失礼、もう一度」
「セックスに興味があるのかどうかを」
「ぼくが?」
「そう、きみ」
「興味か」
しばらく言葉を反芻した。興味、興味、興味。
僕はムチを背中にしまって口を開いた。
「例えば食事」
「うん?」
「例えば睡眠とか」
「食事と睡眠」
「食事に興味があるか、睡眠に興味があるか、という質問には正直答えづらい。こういった生活に根付くものは、いましたいかしたくないか、そういう尋ね方のほうが答えやすいかもしれない」
「なるほど」
「ねえ、繰り返すようで悪いけれど、きみはぼくをセックスに誘っているという認識であっているかな」
「まさに」
「いましがた、きみを倒した僕に?」
「そのとおり」
「もしかして」
「でも誰とでも寝るわけじゃない。わたし、そんなに軽そうに見える?」
外見のせいかむしろ重そうに見えた。ぼくは爆弾岩を体に乗せることを少し想像した。
「きみにそのムチで叩かれてるときにね、ふと思ったの。セックスしてもいいかなって」
「そういうことはよく?」
「実をいうと初めて。正直自分でも驚いている。でも、そういう気持ちって大事にしたいタイプなの。わかる?」
「わかるよ」
「さて、もう質問はない? それじゃあ答えを聞かせて。大丈夫、きみは断っても構わない。それはお互いに恥ずかしいことでもなんでもないの。いまおなかすいている?まだ大丈夫。そういう類のお話。ねえ、きみ。セックスって興味」
こほん、と咳払い。
「わたしとセックスをしてみない?」
そういって、僕に微笑みかけた。
僕は暫く爆弾岩とのセックスを考えてみた。
岩とのセックス。岩への愛撫。岩への挿入。岩への抽送。岩への射精。岩へのピロートーク。
僕は自分の想像力のなさを感じた。その想像は戯画的で性行為の生々しさとリアリティにかけていたからだ。
ものは試しと誰かが言ったことを思い出した。
僕は膝をおり、爆弾岩に目線の高さを合わせた。
「爆弾岩さん」
「どう、セックスする気になった?」
「上手くできるかどうかわからいけれど、それでも良ければ」
僕は少し言葉をためた。
「答えは、イエスだ」
僕はいつだってイエスだ。
爆弾岩とだって、セックスくらいできるはずなのだ。
僕らは大きな岩場の近くに移動した。
この岩場の陰なら、誰にも見られないらしい。
本当に?と僕が聞くと、
「もし見つかったとしても、わたしは岩に擬態していればいいし、きみはその岩を抱いて眠っているふりをすればいいのよ。誰もわたしたちがセックスをしているなんて思いもしない」
と言ってコロコロと体を揺らしながら笑った。
裸で岩を抱いて眠っているところなんて見られなくなかったけど、たしかに岩とセックスをしていると思われるよりははるかにましだった。
爆弾岩はゆっくりと僕に向かって転がってきた。
「ねえ、服脱いで」
僕は装備を外して、体を横に倒した。
爆弾岩は、裸になった僕の体に優しく乗り、ペニスの周りをゆっくりとごろごろと転がった。
「どう? 気持ちがいいでしょ」
「とても」
「大きくなってきてる。それにすごく硬い」
「きみよりも?」
「もう」
少し笑って、再び勃起したペニスの周りをごろごろと回りだした。
ふと気になって僕は尋ねた。
「ところで」
「なあに?」
「とても失礼なことを言ってしまうかもしれないんだけど」
「言ってみて」
「きみは割れたりしないだろうか?」
「それはひょっとして、ヴァギナの話?」
「そうじゃない。きみとセックスして、仮に、きみが絶頂に達したとする」
「楽しみ」
「絶頂に達して、きみが突然割れたりしたら、僕はとても複雑な気持ちになる」
「安心して。割れたことはない。それとも、割れるくらい激しくしてくれるってこと?」
「あるいは」
僕はもう一歩踏み込んでみた。
「では、メガンテは?」
「はい?」
僕は気になっているのはそこだった。
セックスする流れにはなっていたけれど、相手は爆弾岩なのだ。
何かの拍子に、相手が爆発する可能性だって視野に入れておくべきなのだ。
故意にではないにしろ、お互いの感情の高まりが、そういった不幸な事故を招くことだってあるのかもしれない。
「メガンテ、爆発。たとえば絶頂と同時に」
爆弾岩は少しあきれるようにペニスに重心を寄せた。
「もう、ほんと馬鹿ね。セックスで爆発なんてするわけないじゃない」
「本当に?」
「絶頂と爆発って全然違うものなの。神経がまったくの別物なの。ねじれの関係。可笑しい。わたし、そんなこと考えたことなかった。絶頂と爆発」
絶頂と爆発。それはどこかの城に掛けられている現代絵画の題名のようも聞こえた。
同時に僕は少しだけ恥ずかしくなった。絶頂と爆発は、確かにとても別物のように感じてきた。
「すまない。きみは絶頂と同時に爆発はしない」
「あ、でもさっきの呪文はだめね。わたしが唱えると、本当に爆発しちゃうから」
「メガンテ?」
「そう、わたしたちって、そういう風にできているの。岩で、丸くて、顔があって」
「そしてその裏側には温かく濡れたヴァギナがある」
「そう、もう濡れてるの。触って、もっと」
僕は爆弾岩の裏にある岩の割れ目にそっと指を入れた。
表面の硬さからは想像できないくらいに、中は柔らかく、そして温かく濡れていた。
声を押し殺す爆弾岩に僕は丁寧に愛撫をした。
入口の柔らかさとは裏腹に、奥のほうは少しざらざらしていた。きめ細やかな砂のような感触が指に残る。
「ねえ、もう大丈夫。挿入れて」
僕は爆弾岩に覆いかぶさり、ヴァギナにペニスを入れた。
柔らかな内肉が僕のペニスを包みこんで締め付けてきた。
「どう?わたしの中に入った感想」
「とても柔らかい」
「きみのは相変わらず硬い」
「動いてもいい?」
「はやくして」
僕は爆弾岩にしっかりと抱きつき、抽送のスピードを上げた。
声を押し殺していた爆弾岩からは、次第に短い声が漏れるようになってきた。
「すごい。もうダメかも。声出ちゃう」
「構わない」
「はしたない声がでちゃう」
「はしたなくなんかない。大丈夫」
「声出ちゃう、声出ちゃう」
僕は強く激しく腰を振ってみせた。
爆弾岩は快楽でしだいに声を押し殺せなくなり。
「岩岩岩岩岩岩岩岩岩岩岩岩岩岩岩岩岩岩岩岩岩岩岩岩岩岩岩岩岩岩」
「うわっ!」
僕はペニスを抜いて飛び退いた。
何かとてつもなく恐ろしい不安がじわじわと頭を満たしていた。
それは焦燥感を多分に含んだ引き返すことが困難に思わせるような警告的な不安だった。
「ねえ、今のって」
「声、大きかった?」
「大きい小さい以前に、何かとんでもないものを聞いた気がする」
「声出す相手は嫌い?」
「嫌いではないけど」
「よかった。ねえ、はやくその硬いのでわたしをもう一度塞いでよ」
僕はおそるおそる、爆弾岩の穴にペニスを挿れた。
「岩岩岩岩岩岩岩岩岩岩岩岩岩岩岩岩岩岩岩岩岩岩岩岩岩岩岩岩岩岩」
僕はもうそれをそういうものだと思い、心を無にしピストンを繰り返す。
「岩岩岩岩岩岩岩岩岩岩岩、岩岩、岩石岩石岩石岩石岩石岩石岩石岩石岩石」
怖い怖い快楽の段階が引きあがるとどうも表現が変わるくさい怖い岩石っていう喘ぎ方怖い。
「岩石岩石岩石、岩せ、岩漿岩漿岩漿岩漿岩漿岩漿岩漿岩漿岩漿岩漿岩漿」
さらに快楽が引きあがったっぽい怖い怖い岩漿ってなにそれ熱い急に膣内が熱くなったなにこれ怖い怖い。
「岩漿岩石岩石火成岩花崗岩火成岩花崗岩火成岩堆積岩堆積岩石礫岩砂岩砕屑岩玄武岩玄武岩玄石灰石」
怖い怖い怖い今どんな状況なのそれありとあらゆる岩の種類で喘いできた怖い怖いまじ怖い。
「岩石!マントル!岩石!マントル!マントル!マントルマントルマントル!」
怖い怖いこんな状況でもマントルって聞くとちょっと字面的にも興奮してくるなにこれ怖い自分が怖いよあと怖い。
「マントル!」
と爆弾岩はびくんと数回震えた。
そしてそのまま体を回転させるように、僕に覆いかぶさって来た。
「あ、ちょっと」
爆弾岩が上に乗るかたちの態勢となり、爆弾岩は積極的にその体を上下に動かし始めた。
これまで以上の快楽の波が一気に僕の体を駆け巡った。
「あ、だめだ、すごく気持ちいい。声が出てしまうかも。声が」
「いいわよ、聞かせてきみの声」
「声が、やばい、声が」
息が荒くなった僕は、声が押し殺せなくなり、そして。
「人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人」
「うっわ!」
爆弾岩は僕から慌てて飛び退いた。
何か途方もない恐怖に遭遇してしまったかのような顔で、おそるおそる近づいてくる。
「ねえ、今のって」
「もしかして、僕、声漏れてた?」
「漏れがどうこうとか、そういう次元じゃなかった」
「ねえ、早く続きをしよう。僕のはもう爆発寸前だよ」
爆弾岩は少し警戒をしながら、再び僕の腰に体重を預けた。
「人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人」
「怖い怖い種族間の溝が想像以上だという後悔に苛まれながらのセックス怖い怖い」
「人人人人人、人人、ヒ、人間種族人間種族人間種族人間種族人間種族人間種族人間種族人間種族」
「怖い怖いどうもわたしと同じ快楽の段階による喘ぎ方があるっぽい怖いなにそれほんとに喘ぎ声なのまじ怖い」
「眼底眼底眼底眼底眼底眼底眼底眼底眼底眼底眼底眼底眼底」
「やだやだなにこれ何言われてるの眼底って何それ怖い響き怖いペニスが当たってるの裏から見て眼底ってことなのなにその発想それ怖いまじ怖い」
「人!眼底!人、チ、チントル!チントル!チントル!チントル!チントルチントルチントルチントルチントル!」
「チントルってなに!?マントルならわかるけどチントルってなに!?なにそれチントル怖い怖いチントル怖い!!」
「チントル!!」
こうして僕は、爆弾岩の体内の奥深くに激しく射精した。
それは噴火のような、激しく流れるマグマのようなとても熱い射精だった。
僕らは岩陰で裸のまま横になった。
お互いに激しく動いたせいでとても汗をかいていた。
僕は袋からアモールの水を取り出してそれを分け合って飲んだ。
「どうだった? わたしとのセックス」
「気が付くことが多い、実りのあるセックスだった」
「わたしも」
「でも、それ以上に最高だった」
「実は同じ意見」
僕らは横になりながらくすくすと笑いあった。
「ねえ、ところで」
と爆弾岩がころころと体を寄せながら聞いてきた。
「眼底、ってどういう意味」
「がんてい」
「さっき、口に出してた。聞き間違いでなければいいけど」
「なんだろう、憶えていないな。眼底って、たしか目の底のことだと思うけど」
「気持ち悪かったらごめんなさい、でもせっかくだから話しておきたいの。いまね、きみに突かれているときに、確かに目の奥に刺激を感じたの」
「目の奥」
「よくよく考えてみたら、わたしの穴の奥には顔があって。それでね、わたし気が付いたの。ここに性感帯があるのかもって」
「なるほど」
「ねえ、これってすごいことなの。わかる?初めて気が付いたの」
と腕の中の爆破岩は興奮が止まらない様子で続けた。
「眼底、そう、目なの。すごい発見。気持ちいいところ見つけちゃったの。みんなにも教えなくちゃ。わたしたちが知らなかった性感帯は目なの。そう、目。眼底」
め。がんて。
爆弾岩が輝きだす。
僕は微笑み、そういえばいま何ゴールドあったかなと思考をめぐらす。
10000Gはあったな、と思ったところで僕らは爆発した。
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